英国旅行記 2

目が覚めた。あまり眠った気はしなかったが、その日は始発でマンチェスターへ行く予定だった。

 

身支度を済ませ Yotel を後にした。

 

まずは、地下鉄に乗り込…

「切符が買えない…」

その券売機は硬貨しか使えないようだった。持ち合わせは紙幣だけだった。

「困った…」

電車の時間まであと数分。紙幣を崩しに売店に向かう時間はない。早朝で駅員の姿は見当たらない。と思ったら、少し離れたところに紙幣も使える券売機があった。なんてことはなかった。

 

改札をくぐると初老の英国人がいた。先ほどからこちらを見ていた人だ。警戒はしていたが悪い人ではなさそうだった。キャリーバックを引いている。どうやら帰国し家路に着くところらしい。

"Hello."
あちらから声をかけてきた。

 

電車ではずっと彼と話していた。マンチェスター行きの電車が出る Euston 駅への乗り継ぎ方を親切に教えてくれた。医者で旅行で日本にも何度も訪れたことがあり他にも色んな国を訪れたが日本がアジアで一番いい国だと言っていた。片言の英語を話す日本人と他愛のない話をずっとしてくれた。

 

乗り換えの Green Park 駅に着いた。

"Have a nice trip"

彼こそが英国紳士だった。本当に優しく親切な人だった。

 

Euston 駅に着き地下鉄から国営鉄道に乗り換えようとしていると駅構内でサイレンが鳴り響いた。利用客が警備員に外に出される。トラブルのようだ。テロなのか火事なのか…周りの人も状況が飲み込めてないらしい。

 

しばらくすると事態は収束したらい。急いで切符を買った。11 : 30 にマンチェスター・U の本拠地オールド・トラフォードのスタジアム見学、15 : 00 にはエティハド・スタジアムでマンチェスター・C の試合観戦のスケジュールを組んでいた。遅れるわけにはいかなかった。

 

無事、電車に乗り込み車内で朝食をとった。焼きたてのクロワッサンとオレンジジュースを頬張りながら外の景色を眺めた。ロンドンから電車で半時もすれば広大な草原に石造りの家々というなんとも英国の田舎っぽい風景が目に入ってくる。“あーイギリスに来たんだなー” という実感が湧いてくる。

 

ロンドンを出て 2 時間半、Manchester Picadery 駅に到着した。重いキャリーバックを引いてホテルへ向かう。迷いはしなかったが思いのほか時間がかかった。スタジアム見学まで時間がない。チェックイン後、使いたくはなかったがタクシーを呼んでオールド・トラフォードへ向かった。

 

マンチェスター郊外の大きな競技場が見えてくる。間に合った。

サッカーファンなら誰もが憧れる “夢の劇場” がそこにはあった。

 

受付を済ませ、中のミュージアムに入る。時間になるまで展示物を見て回った。ここで時間を取りすぎて所定の時間のツアーを逃してしまったのだが、直後のツアーに組み込んでもらえた。

 

同じ組みにはオマーン、スペイン、ドイツ、韓国等さまざまな国の人々がいた。中でもアジア系の人が多かった気がする。マンチェスター・U は世界的なビッグクラブでアジア戦略も重要視している。その効果はツアーに確実に反映されているようだった。

 

ツアーではガイドがクラブの歴史や施設の特徴を説明してくれるのだが、リスニングが不得手な 22 歳の日本人男性は写真を撮ることに専念していた。だから小学生くらいの韓国人少年がガイドの質問に答えていたのには驚いた。きっと親父さんが SAMSUNG の社員で愛息子に英才教育を施しているに違いない。

 

オールド・トラフォードといえば世界有数のスタジアムだが決して “広い” という印象は受けなかった。むしろ、スタンドとピッチの距離が近く臨場感溢れるスタジアムという感じだ。この “臨場感” がイングランドのスタジアムの特徴で熱狂的な雰囲気を醸し出すのだろうと思った。

 

ドレッシングルームには選手のユニフォームが飾られており、各々が贔屓の選手のユニフォームを手に取り記念写真を撮っていた。自分も、“これがファーガソン監督がスパイクを蹴り上げベッカムに怪我をさせた部屋かー” なんて感慨に耽りながらルーニーやファンペルシーや香川のユニフォームを手に取った。

 

ツアーはオマーン人に写真を撮ってあげたり撮ってもらったりしているうちに終わった。出口はオフィシャルショップに直結しており、興奮冷め止まぬファンの衝動買いを促進する構造になっていた。興奮冷め止まぬ日本人が "Rooney 10" のシャツを買ったことは言うまでもない。

 

スタジアムの外で何枚か写真を撮り終え、マンチェスター東部へ向かった。今度はマンチェスター・C の試合観戦だ。

 

試合に間に合う電車はなかったが、そんなことは織り込み済みだった。スタジアム周辺で待機しているタクシーを捕まえた。こうした旅行では "Time is money" だ。第一、この旅の最大の目的はサッカー観戦だ。試合は一分たりとも見逃せない。

 

タクシーを使うと割と時間に余裕ができたためスタジアムの周りを散策し、オフィシャルショップで "NASURI 8" のシャツを購入した。シーズン終盤だったせいかユニフォームはセール価格で販売してあり、帰りにお土産用にともう一枚 "KUN AGUERO 16" 購入することになった。

 

こういう場所ではなんでも美味しく見えてしまう。腹が減っては観戦できぬと、出店でハンバーガーを食べた。煮込みハンバーグを挟んだシンプルなものだったが腹を満たすのには充分だった。腹ごしらえを終え、いよいよスタジアムに入った。

 

コンコースはユニフォームやマフラーでクラブへの忠誠を示すシティファンで溢れ返っていた。イングランドのスタジアムではスタンドでの飲酒が禁止されているためコンコースでビールを飲みながら顔なじみとこれから行われる試合について "あーでもない" "こーでもない" と話をするのが地元ファンの慣習のようだ。

 

スタンドで自分の席に着いた。

「近いっ!」

一階席の前列の席だったためピッチとの距離が相当近くに感じられた。

感覚的に “草サッカーを見ている” くらいの近さであった。

 

そんな距離で世界トップレベルの選手達のプレーを見た。前回、スペインでバルセロナの試合を見たときもそうだが、自分が海外でサッカー観戦すると得点シーンが多く見られる。試合はシティが 4-0 でニューカッスルを下した。ウン万円のチケット代に見合うゲームだった。

 

最寄りの地下鉄で市中心部へ戻った。

 

イギリス観光初日でトラブルもなく順調に観光出来たが、一人旅というのは思ってたよりずっと疲れる。その日は慣れない土地での移動や早起きで疲れていたこともあり市内観光はせずホテルで休むことにした。

 

途中、Picadery 駅のコンビニで夕食と翌朝の朝食を買った。ロンドンより物価が低くて安心した。

 

Campanile Manchester はユースホステルだったが一人部屋で部屋も広く快適に休むことが出来た。Yotel とは雲泥の差だったことは言うまでもない。 

 

続く